コーポレートガバナンスとは?意味・目的・強化施策を解説

コーポレートガバナンスは、現代の企業経営において非常に重要な概念です。
企業の不祥事を防ぎ、持続的な成長を達成するためには、健全な経営体制の構築が不可欠とされています。
本記事では、コーポレートガバナンスの基本的な意味や目的、具体的な強化施策、関連用語との違いから企業の事例までを網羅的に解説します。
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目次[非表示]
- 1.コーポレートガバナンスとは「企業を健全に経営するための仕組み」のこと
- 2.コーポレートガバナンスが果たす3つの重要な目的
- 3.コーポレートガバナンスと類似用語の違いを解説
- 4.コーポレートガバナンスが重要視されるようになった背景
- 5.金融庁と東証が定める「コーポレートガバナンス・コード」とは
- 5.1.基本となる5つの原則
- 6.コーポレートガバナンスを強化するための具体的な4つの施策
- 7.コーポレートガバナンス強化に伴う課題・注意点
- 8.非上場企業にもコーポレートガバナンスは必要か?
- 9.コーポレートガバナンスに関する企業の事例
- 10.まとめ
- 11.コーポレートガバナンスの強化に「SAKU-SAKU Testing」がおすすめ
コーポレートガバナンスとは「企業を健全に経営するための仕組み」のこと

コーポレートガバナンスとは、企業経営を監視・規律する仕組みを指します。
一般的に「ガバナンス」という言葉は「統治」や「管理」を意味し、これを企業経営に当てはめたものがコーポレートガバナンスです。
具体的には、株主をはじめとするステークホルダーの利益を最大化することを目指し、経営者の不正行為や暴走を防ぎ、公正で透明性の高い経営を実現するための体制を構築・運用することを意味します。
この仕組みによって、企業は社会的な信頼を獲得し、中長期的な企業価値の向上を図ることが可能となります。
コーポレートガバナンスが果たす3つの重要な目的

コーポレートガバナンスの強化は、単に不正を防ぐだけでなく、企業価値を向上させるための重要な目的を担っています。
具体的には、「経営の公正性と透明性の確保」「ステークホルダーの利益保護」、そして「企業の持続的な成長」という3つの大きな目的を達成するために機能します。
これらの目的は相互に関連し合っており、健全な企業経営の基盤を形成します。
経営の公正性と透明性を高める
コーポレートガバナンスは、経営の意思決定プロセスにおける公正性と透明性を確保する重要な役割を担います。
経営陣による独断的な判断や、一部の者に不当な利益がもたらされる事態を防ぐため、社外取締役の設置や取締役会による監督機能の強化が行われます。
これにより、客観的な視点からの監視が働き、経営判断の妥当性が高まります。
また、企業の財務状況や経営戦略といった情報を適切に開示することで、社内外のステークホルダーからの信頼を獲得し、健全な企業運営を維持することが可能になります。
ステークホルダー(利害関係者)の利益を保護する
企業活動は、株主や投資家だけでなく、従業員、顧客、取引先、地域社会といった多様なステークホルダーによって支えられています。
コーポレートガバナンスは、これらの利害関係者全体の利益を考慮し、保護することを目的とします。
例えば、従業員の権利を守るための労働環境の整備や、顧客に対する安全な製品・サービスの提供、取引先との公正な関係構築などが挙げられます。
短期的な株主利益の追求に偏ることなく、幅広いステークホルダーとの良好な関係を築くことが、結果として企業の持続的な発展に不可欠です。
企業の持続的な成長と中長期的な価値向上を目指す
コーポレートガバナンスの最終的な目的は、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現することにあります。
経営の透明性を高め、ステークホルダーからの信頼を得ることで、資金調達が円滑になったり、優秀な人材が集まりやすくなったりするなど、安定した経営基盤が築かれます。
また、リスク管理体制の強化や、変化する市場環境への迅速な対応が可能となり、短期的な利益に左右されない戦略的な経営判断を下すことができます。
これにより、企業は革新を生み出し続け、社会における存在価値を高めていくことが可能となります。
コーポレートガバナンスと類似用語の違いを解説

コーポレートガバナンスについて理解を深める上で、「内部統制」「コンプライアンス」「CSR」といった類似用語との違いを正確に把握することが重要です。
これらの用語は密接に関連していますが、それぞれが指す概念の範囲や目的が異なります。
これらの関係性を整理することで、コーポレートガバナンスが企業経営全体を俯瞰する包括的な仕組みであることがより明確になります。
「内部統制」との違い:目的を達成するためのプロセス
コーポレートガバナンスと内部統制は、しばしば混同されやすい概念です。
コーポレートガバナンスが「経営者を監視・監督する仕組み」であり、主に株主などの外部の視点から企業のあり方を問うものであるのに対し、内部統制は「企業が自らの目的を達成するために、組織内部に構築・運用されるプロセス」を指します。
具体的には、業務の有効性・効率性の向上、財務報告の信頼性確保、法令遵守などを実現するためのルールや手続きのことであり、経営者(マネジメント)が主体となって整備します。
内部統制は、コーポレートガバナンスという大きな目的を実現するための具体的な手段の一つと位置づけられます。
「コンプライアンス」との違い:法令遵守の徹底
コンプライアンスは、日本語で「法令遵守」と訳され、企業が法律や条例、社会規範、倫理などを守って活動することを意味します。
これはコーポレートガバナンスを構成する重要な要素の一つですが、両者の指す範囲は異なります。
コンプライアンスが主に「守り」の側面、つまりルールを守ることに焦点を当てているのに対し、コーポレートガバナンスはそれに加えて、企業価値をいかに向上させていくかという「攻め」の側面も含む、より広範な経営の枠組みです。
コンプライアンス違反は企業の存続を揺るがすため、ガバナンス体制においてその徹底が求められます。
▶関連記事:コンプライアンスとは?意味・重要性・違反事例・対策までわかりやすく解説
▶関連記事:コンプライアンスとガバナンスの違いとは?強化するメリットや体制づくりを解説
「CSR(企業の社会的責任)」との違い:社会貢献への取り組み
CSR(Corporate Social Responsibility)は「企業の社会的責任」と訳され、企業が利益追求だけでなく、環境保護活動や地域社会への貢献、人権への配慮など、社会の一員として果たすべき責任を自主的に担う取り組みを指します。
コーポレートガバナンスが企業の「統治」の仕組みであるのに対し、CSRは具体的な「活動」そのものを指すことが多いです。
健全なコーポレートガバナンスが機能している企業は、CSR活動にも積極的に取り組む傾向にありますが、両者は目的とアプローチが異なります。
ガバナンスは経営の仕組み、CSRは社会との関係性における行動と整理できます。
▶関連記事:CSR(企業の社会的責任)とは?コンプライアンスとの違い・実務での活用を徹底解説
コーポレートガバナンスが重要視されるようになった背景

コーポレートガバナンスが広く注目されるようになった背景には、国内外の経済状況の変化と、それに伴う企業不祥事の多発があります。
日本では、1990年代のバブル経済崩壊後、不正会計や総会屋への利益供与といった問題が相次いで発覚し、従来の経営体制への信頼が大きく揺らぎました。
また、グローバル化の進展により、海外の機関投資家が日本企業に投資する機会が増え、彼らが国際的な基準に基づいた透明性の高い経営を求めるようになったことも大きな要因です。
こうした内外からの要請に応える形で、企業は株主や社会からの信頼を再構築し、持続的な成長を遂げるために、経営を監視する仕組みの強化が不可欠となりました。
金融庁と東証が定める「コーポレートガバナンス・コード」とは

日本のコーポレートガバナンスを語る上で欠かせないのが、金融庁と東京証券取引所が共同で策定した「コーポレートガバナンス・コード」です。
これは、上場企業が実効的なガバナンスを実現するために参照すべき原則・指針をまとめたもので、企業の持続的な成長と中長期的な価値向上を促すことを目的としています。
法的拘束力はありませんが、各原則を実施しない場合にはその理由を説明する責任(コンプライ・オア・エクスプレイン)が求められるため、多くの企業がこのコードを意識した経営体制の構築を進めています。
参考:株式会社東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」
基本となる5つの原則
コーポレートガバナンス・コードには、企業が尊重すべき考え方として5つの基本原則が示されています。
第一に「株主の権利・平等性の確保」、第二に株主以外の「ステークホルダーとの適切な協働」です。
第三は「適切な情報開示と透明性の確保」で、経営の正当性を担保します。
第四に「取締役会等の責務」として、経営に対する監督機能の重要性が挙げられます。
そして第五が、中長期的な企業価値向上に資する「株主との対話」です。
これらの5つの基本原則は、企業が実効的なガバナンス体制を構築し、持続的な成長を遂げるための根幹をなすものと位置づけられています。
コーポレートガバナンスを強化するための具体的な4つの施策

コーポレートガバナンスを実効性のあるものにするためには、理念を掲げるだけでなく、具体的な施策に落とし込む必要があります。
企業の規模や業種によって最適な方法は異なりますが、一般的に有効とされる代表的な施策が存在します。
ここでは、内部統制の構築から、役員制度の見直し、社内規程の整備まで、ガバナンス強化に直結する具体的な取り組みを4つ紹介します。
内部統制システムを構築・運用する
コーポレートガバナンスを支える基盤として、内部統制システムの構築と適切な運用が不可欠です。
このシステムは、業務の効率化、財務報告の信頼性確保、法令遵守、資産の保全という4つの目的を達成するために設計されます。
具体的には、職務権限の明確化や、承認プロセスのルール化、定期的な内部監査の実施などが含まれます。
全社的なリスクを識別・評価し、それに対応する統制の仕組みを整備することで、不正やミスの発生を未然に防ぎ、組織全体の健全な運営を確保します。
これは、経営者が主体となって推進すべき重要な取り組みです。
独立した立場の社外取締役・社外監査役を置く
経営陣から独立した客観的な視点を取り入れることは、ガバナンス強化において極めて重要です。
そのための有効な施策が、社外取締役や社外監査役の設置です。
彼らは社内の利害関係にとらわれず、豊富な経験や専門知識を基に経営に対して助言や監督を行います。
これにより、取締役会の議論が活性化し、経営判断の妥当性が向上します。
また、経営陣に対する牽制機能が働くことで、業務執行の透明性が高まり、株主をはじめとするステークホルダーの利益保護につながる効果も期待されます。
▶関連記事:社外取締役とは?主な役割と意義について解説!
経営と執行を分離する執行役員制度を導入する
迅速な意思決定と適切な監督機能を両立させるため、執行役員制度を導入する企業が増えています。
この制度は、取締役会が経営の基本方針や重要事項の決定、および業務執行の監督に専念し、選任された執行役員が具体的な業務執行の責任を負うという役割分担を明確にするものです。
経営の「意思決定・監督機能」と「業務執行機能」を分離することで、取締役会はより大局的な視点での議論に集中でき、監督機能が強化されます。
一方、執行役員は担当業務に専念できるため、機動的な事業運営が可能となります。
企業のルールブックとなる社内規程を整備する
組織全体にガバナンスを浸透させるためには、明確なルールに基づいた運営が不可欠です。
その根幹となるのが、企業の憲法ともいえる社内規程の整備です。
就業規則や経理規程といった基本的なものから、コンプライアンス規程、リスク管理規程、情報セキュリティ規程など、事業活動に伴う様々なリスクを想定したルールを策定し、文書化します。
そして、これらの規程を全従業員に周知徹底し、遵守させることで、組織としての統一された行動基準が確立され、内部統制が有効に機能する土台が築かれます。
コーポレートガバナンス強化に伴う課題・注意点

コーポレートガバナンスの強化は、企業の信頼性や価値向上に大きく貢献する一方で、いくつかの課題や注意点も存在します。
監督機能の強化やプロセスの厳格化は、時として経営の柔軟性を損なう可能性があり、また体制構築には相応のコストも発生します。
これらのデメリットを理解し、自社の状況に合わせて適切なバランスを取ることが、実効性のあるガバナンス体制を築く上で重要となります。
経営の意思決定スピードが低下する可能性
コーポレートガバナンスを強化する過程で、経営の意思決定スピードが鈍化する可能性があります。
例えば、社外取締役の意見聴取や取締役会での慎重な審議、リスク評価プロセスの厳格化など、多様な視点を取り入れ、手続きの公正性を担保するための工程が増えるためです。
これらのプロセスは中長期的な視点では適切な判断につながる一方で、市場環境が急速に変化する状況下では、機動的な経営判断の妨げとなり、ビジネスチャンスを逸するリスクもはらんでいます。
監督機能と経営のスピード感のバランスをいかに取るかが課題となります。
体制構築や外部人材の確保にコストがかかる
実効性のあるコーポレートガバナンス体制を構築・維持するためには、相応のコストが発生します。
例えば、専門的な知見をもつ社外取締役や監査役を招聘するための役員報酬、内部統制システムを整備・運用するためのIT投資やコンサルティング費用、法務・コンプライアンス部門の人員拡充などが挙げられます。
特に、高い専門性をもつ外部人材の確保は容易ではなく、相応の費用が必要です。
これらの投資は企業の持続的成長に不可欠ですが、特に経営資源が限られる中小企業にとっては、大きな負担となる場合があります。
非上場企業にもコーポレートガバナンスは必要か?

コーポレートガバナンスは、東京証券取引所のコードなどから上場企業に求められるものというイメージが強いですが、非上場企業にとってもその重要性は変わりません。
法的な義務は少ないものの、ガバナンスを強化することで、金融機関からの融資を受ける際の信用力向上や、事業承継を円滑に進めるための体制整備につながります。
また、従業員や取引先からの信頼を獲得し、組織の健全な成長を促す基盤となります。
将来的にM&AやIPO(株式公開)を目指す場合には、早期からガバナンス体制を構築しておくことが企業価値評価を高める上で極めて有効です。
コーポレートガバナンスに関する企業の事例

コーポレートガバナンスの理論だけでなく、実際の企業がどのように取り組み、どのような結果につながったかを知ることは、その理解を深める上で非常に有益です。
ここでは、ガバナンス強化によって企業価値を高めることに成功した企業の事例と、逆にガバナンスの欠如が重大な不祥事を引き起こした事例の双方を取り上げ、その具体的な内容と教訓を見ていきます。
ガバナンス強化に成功した企業の取り組み事例
ガバナンス強化に成功した企業の多くは、取締役会の改革に積極的に取り組んでいます。
例えば、ある企業では、取締役の過半数を独立性の高い社外取締役で構成し、CEOの選解任や後継者計画を審議する指名委員会を設置しました。
これにより、経営の監督機能が大幅に強化され、経営判断の客観性と透明性が向上しました。
また、役員報酬に株価や業績と連動するインセンティブプランを導入し、経営陣が株主と価値観を共有する仕組みを構築した事例もあります。
こうした取り組みは、投資家からの評価を高め、中長期的な企業価値の向上に結びついています。
ガバナンスの欠如が招いた不祥事の事例
過去には、コーポレートガバナンスの欠如が原因で、社会の信頼を大きく損なう不祥事を起こした企業が数多く存在します。
3つの事例の概要と原因、その事例から得られる教訓をご紹介します。
1. 東芝(2015年発覚):組織的な利益水増し
【概要】
「チャレンジ」と呼ばれる経営トップからの過大な利益目標を達成するため、インフラ、半導体、PCなど主要部門で長年にわたり組織的な利益水増しが行われました。
【原因】
「物言えぬ」企業風土: 上司の意向に逆らえない強固な上下関係が不正の温床となりました。
監視機能の形骸化: 監査委員会が機能せず、内部監査部門も経営陣の指示をチェックする役割を果たせませんでした。
【教訓】
「仕組み(委員会設置など)」だけを整えても、現場の声を吸い上げる文化や、経営層を牽制する実効性がなければ不正は防げません。
2. オリンパス(2011年発覚):巨額損失の「飛ばし」
【概要】
バブル期の投資失敗による約1,100億円の損失を隠すため、不透明な企業買収を通じて損失を外部に「飛ばし(隠蔽)」、10年以上にわたって虚偽の決算を続けました。
【原因】
トップによる密室経営: 一部の役員のみで情報を独占し、不審な買収案件を独断で進めました。
異論の排除: 不正に気づき指摘した外国人社長を、取締役会が不当に解任。自浄作用が完全に失われていました。
【教訓】
情報の独占は腐敗を招きます。取締役会の透明性と、内部通報者が守られる環境の重要性を物語る事例です。
3. カネボウ(2005年発覚):債務超過の隠蔽
【概要】
主力事業の業績悪化による「債務超過(資産より借金が多い状態)」を隠すため、連結会計の仕組みを悪用。粉飾決算により利益が出ているように装い続けました。
【原因】
変化への拒絶: 市場環境の変化による赤字を直視できず、抜本的改革よりも「見かけの数字」を優先しました。
外部専門家との共謀: 監査法人の担当会計士も粉飾に関与し、本来あるべき「外部の目」が機能しませんでした。
【教訓】
不都合な真実を隠すことは、企業の寿命を縮めるだけです。健全な危機意識の共有と、外部監査の独立性が不可欠です。
まとめ
コーポレートガバナンスは、企業の不正を防ぎ、経営の公正性と透明性を確保するための監視の仕組みです。
株主をはじめとする多様なステークホルダーの利益を保護し、企業の持続的な成長と中長期的な価値向上を目指すことを目的としています。
内部統制やコンプライアンスといった関連用語と区別して理解し、社外取締役の設置や内部規程の整備といった具体的な施策を通じて体制を強化することが求められます。
意思決定の遅延やコスト増加といった課題も存在しますが、社会からの信頼を獲得し、健全な企業活動を継続していく上で不可欠な経営基盤であるといえます。
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