【2026年施行|公益通報者保護法改正のポイント】内部通報制度と企業の責務

企業の不祥事やコンプライアンス違反のニュースが後を絶たない現代において、「内部通報制度」は組織の健全性を保つための要(かなめ)です。
2026年(令和8年)12月に施行される改正公益通報者保護法では、通報者を守る仕組みがこれまで以上に強化され、企業に対するペナルティ(罰則)もより厳格なものへとアップデートされました。
人事部やコンプライアンス推進部門の担当者にとって、この改正は単なる「法律のアップデート」にとどまりません。社内規定の見直しや外部委託先(フリーランスなど)への対応、そして全従業員に対する教育体制の再構築など、実務面において数多くの対応が求められます。
本記事では、2026年に施行される改正内容の要点を分かりやすく整理するとともに、法改正に伴って企業が具体的にどのようなアクションを起こすべきか、実践的な視点から詳しく解説します。
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目次[非表示]
- 1.公益通報者保護法が改正される背景と目的
- 1.1.組織の不祥事を防ぐ自浄作用の強化
- 1.2.通報者保護の実効性向上
- 1.3.2026年までの施行スケジュール
- 2.【2026年施行】公益通報者保護法の改正内容
- 2.1.保護対象の拡大(フリーランスの追加)
- 2.2.不利益な取扱いの抑止(解雇・懲戒の無効と推定規定)
- 2.3.通報妨害・通報者探索の禁止と罰則導入
- 2.4.行政による執行権限の強化(是正勧告・公表など)
- 3.人事・コンプライアンス担当者が対応すべき実務
- 3.1.内部通報規定の見直しと改訂
- 3.2.外部協力者への周知・窓口整備
- 3.3.通報者情報の秘匿性を担保するフロー再確認
- 3.4.役員と管理職による理解促進
- 4.実効性のある内部通報制度を構築するポイント
- 5.まとめ:法改正を機に「選ばれる企業」への転換を
公益通報者保護法が改正される背景と目的

そもそも、なぜ公益通報者保護法の改正が行われるのでしょうか。
その背景には、制度の形骸化や、依然として通報者が不利益な扱いを受けるケースが後を絶たないという社会的な課題があります。
ここでは、法律が改正される根本的な理由と、国が企業に求めている「本来の姿」について紐解いていきます。
組織の不祥事を防ぐ自浄作用の強化
企業内で不正が起きた際、それが外部に漏れる前に組織内部で問題を把握し、自らの手で軌道修正する能力「自浄作用」が不可欠です。しかし、多くの不祥事事例を見ても分かる通り、現場の従業員が不正に気づいても「誰に相談すればいいか分からない」「通報しても揉み消されるのではないか」といった不安から、声が上げられないケースが散見されます。
改正の大きな目的のひとつは、この自浄作用を企業に強く促すことです。法的なルールを厳格化することで、経営陣が率先して内部通報制度を整備・運用せざるを得ない環境を作り出し、組織的な不正の隠蔽を防ぐ狙いがあります。企業にとっては耳の痛い意見であっても、それをいち早く拾い上げて改善に向かわせることが、結果的に深刻なダメージ(企業ブランドの失墜や巨額の損害賠償など)を防ぐ最大の防御策となります。
通報者保護の実効性向上
「勇気を出して通報したのに、結果的に自分が会社に居づらくなってしまった」という事態は、絶対にあってはなりません。しかし、これまでの法律では、通報者が事実上の報復人事(降格や左遷、あるいは嫌がらせなど)を受けた際、それが「通報を理由とした不当な扱いである」と証明するハードルが高いという課題がありました。
また、通報者を探し出そうとする犯人探し(通報者探索)を直接的に禁止する強い法的根拠も不足していました。
今回の改正は、こうした制度の抜け穴を塞ぎ、通報者が完全に守られるという安心感を担保するためのものです。罰則の強化や推定規定の導入によって、通報者保護の実効性を飛躍的に高めることが、本改正の最大の焦点と言えます。
2026年までの施行スケジュール
今回の改正法は、2025年(令和7年)6月に公布され、翌2026年(令和8年)12月1日に施行されることが決定しています。
企業の実務担当者から見ればまだ時間があると感じるかもしれません。しかし、後述する通り、社内規程の抜本的な改訂や、新たに保護対象となるフリーランスへの周知、全社的なコンプライアンス教育の実施など、準備すべき項目は多岐にわたります。
- 2026年上半期:経営層や窓口担当者への研修、新しい運用フローのテスト
- 2026年下半期:全従業員および外部協力者(フリーランス等)への周知徹底と教育
このようにスケジュールを逆算していくと、決して余裕があるわけではありません。施行日に慌てて対応するのではなく、計画的に準備を進めることが重要です。
【2026年施行】公益通報者保護法の改正内容

ここからは、2026年に施行される改正法の具体的な中身に踏み込んでいきます。今回の改正では、これまでの実務に大きなインパクトを与える変更がいくつか盛り込まれています。特に人事・総務担当者が押さえておくべき重要ポイントを整理しました。
保護対象の拡大(フリーランスの追加)
これまでの法律で保護の対象となっていたのは、主に正社員、契約社員、派遣社員、アルバイトといった「直接・間接的に雇用関係にある労働者」や「退職後1年以内の者」、そして「役員」でした。
しかし今回の改正により、新たにフリーランス(特定受託業務従事者)が保護対象として明確に追加されました。
- 現行制度:社内の労働者や退職者が主な保護対象
- 改正後:上記に加え、業務委託関係にあるフリーランス(契約終了後1年以内を含む)も保護対象に
企業は近年、業務の一部を外部のフリーランスに委託するケースが増えています。彼らは社内の事情に深く関わる一方で、弱い立場に置かれがちです。改正後は、フリーランスが取引先の不正を通報したことを理由に、契約を打ち切る、あるいは報酬を減額するといった不利益な扱いをすることが厳しく禁じられます。
企業側は、内部通報の窓口を社外のパートナーにも開放し、その存在を正しく周知する義務を負うことになります。
不利益な取扱いの抑止(解雇・懲戒の無効と推定規定)
通報に対する報復行為を徹底的に防ぐための強力なルールが新設されました。
推定規定の導入:通報から1年以内に、通報者が解雇や懲戒処分などの不利益な扱いを受けた場合、それは「通報を理由とした報復である」と法律上推定されるようになります。これまで通報者側が報復であることを証明しなければならなかった立証責任のハードルが下がり、逆に企業側が通報とは無関係の正当な処分であることを証明しなければならなくなります。
刑事罰の新設:通報を理由として不当に解雇や懲戒処分を行った場合、個人(代表者や処分の決裁者など)に対して6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、法人に対して3,000万円以下の罰金という重い刑事罰が科されることになりました。
これにより、安易な報復人事は企業経営を揺るがす重大な犯罪行為となるため、人事評価や懲戒権の行使にはこれまで以上の慎重さと客観性が求められます。
通報妨害・通報者探索の禁止と罰則導入
誰が密告したんだと通報者を探し出そうとする犯人探しは、通報制度を根底から破壊します。今回の改正では、こうした行為に明確な歯止めがかけられました。
- 通報者探索の禁止:正当な理由なく、通報者を特定しようとする行為そのものが法律で禁止されます。
- 通報妨害の禁止:従業員や退職者に対して、会社の不祥事を外部に漏らさないといった誓約書を書かせる行為、あるいは退職時の合意書(秘密保持契約など)に公益通報を封じるような条項を入れることが禁止されます。仮にそうした合意を結んでいたとしても、法律上無効として扱われます。
社内調査を進める際、人事部や法務部であっても「誰が通報したか」に焦点を当てるのではなく、「通報された事実が存在するかどうか」の客観的な調査に徹する姿勢がより一層求められます。
行政による執行権限の強化(是正勧告・公表など)
従業員数が301人以上の企業には、「公益通報対応業務従事者」を明確に指定し、適切な体制を整備する義務があります(300人以下の企業は努力義務)。今回の改正では、この義務違反に対する行政のペナルティが強化されました。
- 権限の強化:体制整備が不十分な企業に対して、消費者庁が指導・助言や勧告を行いますが、その勧告に従わない場合には命令を出すことが可能になりました。
- 命令違反時の罰則:行政からの命令にも違反した場合、企業名が公表されるだけでなく、30万円以下の罰金という刑事罰の対象となります。
さらに、社内の体制整備状況について全従業員へ周知すること自体も法律上の義務として明文化されました。単に規定を作って窓口を設けただけでは不十分であり、行政から実態を伴った運用が厳しく監視されることになります。
人事・コンプライアンス担当者が対応すべき実務

法律の改正内容を把握した後は、それを自社の仕組みにどう落とし込むかが課題です。特に2026年の施行に向けて、人事部やコンプライアンス部門は社内のルール作りから現場の運用フローまで、細部にわたる見直しを進めなければなりません。
ここでは、実務担当者が優先して取り組むべき具体的なアクションを解説します。
内部通報規定の見直しと改訂
まずは、自社の内部通報規定や関連するマニュアルが、2026年施行の改正法に適合しているかを確認し、改訂する作業が必要です。チェックすべき主なポイントは以下の通りです。
通報者の定義にフリーランス(特定受託業務従事者)を含めているか
秘密保持契約(NDA)や就業規則の中に、公益通報を制限するような文言が含まれていないか
通報者に対する不利益取扱いの禁止事項に、解雇や懲戒だけでなく、業務委託の解除や報酬減額なども明記されているか
- 通報者探索を明確に禁止する条項が盛り込まれているか
また、規定を改訂した後は、労働基準監督署への届出(就業規則の変更を伴う場合)や、社内イントラネットでの最新版の公開など、手続きに漏れがないよう注意しましょう。
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外部協力者への周知・窓口整備
前述の通り、フリーランスが保護対象に加わるため、社外へのアプローチも欠かせません。従来は社内報や社内掲示板で従業員向けに周知すれば足りましたが、今後は業務委託先に対しても、自社には内部通報窓口があり不当な扱いは受けないということを知らせる必要があります。
業務委託契約書を締結する際、コンプライアンスに関するガイドラインや通報窓口の案内を同封する
コーポレートサイト上に、外部協力者向けの専用通報窓口フォームを設置しアクセスしやすくする
フリーランスから通報があった場合の事実確認フロー(誰が、どのようにヒアリングを行うか)を事前に取り決めておく
通報者情報の秘匿性を担保するフロー再確認
通報窓口の担当者(公益通報対応業務従事者)には、極めて重い守秘義務が課せられています。情報漏洩は罰則の対象となるため、実務レベルでの情報管理フローを改めて点検してください。
- 受付時の管理:通報メールや電話の記録は、限定された担当者しかアクセスできないセキュアな環境に保存されているか
- 調査時の配慮:対象部門に事実確認を行う際、質問の内容から誰が通報したかが推測されないよう、ヒアリングの順番や聞き方に細心の注意を払っているか
- 情報共有の範囲:経営陣に報告を上げる際も、通報者の氏名や所属などの特定につながる情報は原則として伏せ、案件の性質とリスクのみを報告するルールになっているか
役員と管理職による理解促進
内部通報制度が機能するかどうかは、現場のマネジメント層や経営トップの姿勢にかかっています。内部通報を裏切り行為といった前時代的な感覚で捉える管理職が一人でもいると、制度は一瞬で崩壊します。
- トップメッセージの発信:経営トップから、内部通報は会社を良くするための正当な行為であり通報者は全力で守るという強いメッセージを定期的に発信させる
- 管理職向け研修の実施:部下から直接相談を受けた場合(窓口以外への通報)の正しい初期対応や、無意識の犯人探しや不利益扱いがいかに重い刑事罰につながるかを徹底的に教育する
人事部としては、経営陣を巻き込みながら、組織全体の意識改革を主導していく役割が求められます。
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実効性のある内部通報制度を構築するポイント

どれだけ立派な規定を作り、システムを導入しても、従業員に使われない窓口であれば意味がありません。制度を形骸化させず、組織の健康診断として機能させるためには、現場の心理的ハードルを下げ、コンプライアンス意識を日常的に根付かせることが不可欠です。
「通報者保護」の徹底周知による心理的ハードル低下
従業員が通報をためらう最大の理由は、自分が不利益を被るかもしれないという恐怖です。この不安を払拭するためには、会社が通報者をどう守るのかを具体的かつ繰り返し伝えることが重要です。
当社では通報者の秘密を絶対厳守し、万が一報復行為があった場合は加害者を厳正に処罰するという方針を、ポスター掲示、社内報、朝礼など、あらゆるタッチポイントで発信し続けましょう。
また、法律で体制の周知が義務化されることも踏まえ、入社時のオリエンテーションだけでなく、全社集会などで定期的に窓口の存在をアピールすることが求められます。
定期的な教育・研修による組織文化のアップデート
コンプライアンス違反は、多くの場合「このくらいなら大丈夫だろう」という個人の甘い認識や、長年続いてきた業界の慣習から生まれます。組織文化を健全に保つためには、年1回程度の単発の研修ではなく、継続的な教育が必要です。
パワハラ・セクハラから、横領、データ改ざんまで、多様な不正のケーススタディを共有する
見て見ぬふりもリスクであることを伝え、声を上げることの重要性を説く
役職や立場に応じた階層別研修を実施し、それぞれの立場で求められる倫理観を醸成する
こうした教育を反復することで、不正は許さないという組織風土が少しずつ形成されていきます。
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通報案件の適切なフィードバックと透明性の確保
通報した側からすれば、自分が勇気を出して伝えた問題がその後どうなったのかは非常に気になるところです。もし通報しても会社が何も動いてくれないと感じれば、次は社内ではなくSNSやメディアへの外部告発に走るリスクが高まります。
もちろん、調査の詳細や処分内容をすべて明かす必要はありませんが、通報者に対しては「調査を開始したこと」や「(問題があった場合は)是正措置を講じたこと」を適切にフィードバックする仕組みを整えてください。
また、社内全体に対しても、個人が特定されない範囲で「今年度は〇件の通報があり、〇件の是正が行われました」といった実績を定期的にレポートすることで、制度の透明性と信頼性が劇的に向上します。
まとめ:法改正を機に「選ばれる企業」への転換を
2026年に施行される公益通報者保護法の改正は、企業に対する監視の目を強める厳しい内容を含んでいます。しかし、これを単なる負担と捉えるか、組織を強くするチャンスと捉えるかで、企業の未来は大きく変わります。
本記事で解説したように、まずはフリーランスを含む対象者への対応、罰則強化を受けた規定の見直し、そして情報管理の徹底といった守りの実務を確実に行うことが第一歩です。
その上で、通報者を守り自浄作用を働かせるという理念を組織全体に浸透させる攻めの教育が不可欠となります。法令順守を徹底し透明性の高い組織風土を築くことは、従業員や取引先だけでなく、投資家や顧客からの信頼獲得に直結し、結果として選ばれる企業としてのブランド価値を高めることになります。
法改正への対応と合わせて、全社的な意識改革を効率的かつ確実に行うためには、システムを活用した継続的な学習環境の構築が有効です。
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