セクハラとは?企業が知るべき法改正後の定義・事例・対応方法

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近年、職場だけでなく就職活動の場でも、セクシュアルハラスメント(セクハラ)が社会問題として注目されています。

従来は「望ましい対応」とされていた就職活動中の学生や求職者へのセクハラ防止ですが、2025年6月に公布された法改正により、企業は求職者等に対して防止措置を講じることが法的義務となりました。

本記事では、セクハラの基本的な定義や種類に加え、今回の法改正の内容と、企業が具体的に取るべき対策について詳しく解説します。

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目次[非表示]

  1. 1.セクハラとは?セクハラの定義
  2. 2.セクハラの種類
    1. 2.1.➀対価型
    2. 2.2.②環境型
    3. 2.3.③制裁型
    4. 2.4.④妄想型
  3. 3.セクハラの事例
    1. 3.1.事例➀発言
    2. 3.2.事例②動作・行動
    3. 3.3.事例③反応・対応
  4. 4.セクハラに関する法律
    1. 4.1.法改正による義務の拡大(男女雇用機会均等法 新13条・14条)
  5. 5.法改正の概要
    1. 5.1.施行時期
  6. 6.就活セクハラ対策義務化のポイント
    1. 6.1.対象となる「求職者等」とは
    2. 6.2.リスクが潜む場面
    3. 6.3.事業主が講ずべき具体的義務
    4. 6.4.実務対応のポイント
  7. 7.裁判の事例
  8. 8.セクハラの予防と対策
    1. 8.1.職場内の対策(従来通り)
    2. 8.2.求職者等への防止措置(法改正による義務)
      1. 8.2.1.方針の明確化・周知
      2. 8.2.2.相談体制整備・周知
      3. 8.2.3.教育義務(採用活動に関与する者)
      4. 8.2.4.発生後の迅速かつ適切な対応
      5. 8.2.5.不利益取扱いの禁止
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セクハラとは?セクハラの定義

「セクハラ」は性的な嫌がらせのことで、「セクシュアルハラスメント(Sexual Harassment 性的嫌がらせ)」を短く言い換えた日本語です。厚生労働省の「職場におけるハラスメント対策マニュアル」では、次のように定義されています。


「職場」において行われる、「労働者」の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応によりその労働者が労働条件について不利益を受けたり、「性的な言動」により就業環境が害されること

ここでの「職場」には、出張先や営業車の中、場合によっては宴席なども含まれます。また「労働者」は正社員だけでなく、パート・アルバイト・派遣社員など非正規雇用もすべて含まれます。
 
セクハラは多くの場合男性から女性への言動ですが、加害者・被害者ともに、男性・女性どちらもありえます。

セクハラの種類

セクハラは大きく4つの種類に分けられます。次の4つです。

  • 対価型

  • 環境型

  • 制裁型

  • 妄想型

厚生労働省の上記マニュアルではこのうち「制裁型」「妄想型」には触れていませんが、ここではそれも含めて1つずつ順に解説していきます。

➀対価型

「対価型」のセクハラは、何らかの点で優遇する対価として性的な行為を求めることを言います。さらに相手が拒否した場合に、その腹いせに報復的な行為をすることも含みます。
 
報復的な行為の例としては、解雇や降格、減給や配置転換などがあります。上司と部下・正社員と非正規社員など、立場の違いや上下関係を利用することが多いタイプです。

②環境型

「環境型」のセクハラは、性的な言動を受けたことで就業環境が不快なものとなることです。環境型はさらに「視覚型」「発言型」「身体接触型」の3つに分けられます。
 
「視覚型」は職場でわいせつな画像を閲覧するなど、視覚に訴えるセクハラです。「発言型」は性的な発言をするタイプのセクハラです。「スタイルがいいね」など、褒めているつもりでもセクハラとなる場合があります。「身体接触型」は相手の身体に触れるタイプです。労をねぎらうなどスキンシップで肩をたたくような場合でも該当することがあります。
 
なお、これら3つの型に当てはまらない行動・動作も多くあります。とくに「発言型」「身体接触型」の場合、自覚なしに行われることがよくあります。

③制裁型

「制裁型」のセクハラは、性差別的な価値観に基づいて圧力をかけたり、相手の性別により態度を変えることです。
 
女性だけにお茶くみを強要したり、女性社員の発言を無視したりする場合が制裁型に当たります。
 
上司から部下の形も多くありますが、それに限りません。性差別的な価値観がもとになっていれば、男性の部下が女性上司に対して行う言動も制裁型に該当します。

④妄想型

「妄想型」は相手が自分に好意を抱いていると決めつけて言動を行うタイプのセクハラです。笑顔であいさつされたり親切心から行ったりしたことなどを、相手が自分に恋愛感情を持っていると勘違いしてしまう場合です。
 
妄想型ははっきりと拒絶しないと加速する危険性があります。セクハラしている本人に自覚がないのが普通です。

セクハラの事例

何がセクハラに当たるのか、事例についてまとめます。
 
セクハラに当たるか判断するときは、被害者の主観を重視しつつも一定程度の客観的視点が必要です。客観的視点として「平均的な女性労働者の感じ方」「平均的な男性労働者の感じ方」が基準となります。必ずしも「被害者がセクハラと思ったらセクハラ」とも言い切れません。
 
ただし、やめてほしいと伝えたのに続ける場合はセクハラとなります。また長期的・複数回にわたる方が認定されやすいですが、内容によっては1回の言動でも認定されます。被害を受けた場合は、記録するなど証拠を残すことが大切です。
 
ここでは以下の行動の種類別に事例を確認します。

  • 発言

  • 動作・行動

  • 反応・対応

 1つずつ見ていきましょう。

事例➀発言

セクハラにあたる発言には、次のようなものがあります。
 
まず、身体的特徴について触れる・質問することです。「身体的特徴」は、スタイルやスリーサイズなどが該当します。これは先にまとめたセクハラの4つの種類のうち「環境型」に当たります。容姿を褒めているだけのつもりでもセクハラに当たる場合があり注意が必要です。
 
交際関係や性的な体験などについてしつこく尋ねることもセクハラです。これも「環境型」に該当します。
 
また、「女性は仕事より出産・育児に専念すべき」などと古い女性像を押し付けるような発言は「制裁型」に当たるセクハラです。
 
食事・デートにしつこく誘うことは「妄想型」「環境型」のセクハラです。肉体関係や不倫関係を求めることは「環境型」「対価型」のセクハラです。

事例②動作・行動

セクハラに当たる動作や行動について例を挙げます。
 
相手の身体などに触れることは「環境型」のセクハラです。触れる場所などに性的な意図がある場合は当然と思われるでしょう。しかし先述した通りスキンシップのつもりで肩に触れるような場合でも、時にはセクハラに該当します。
 
性別を理由に無視することは「制裁型」に当たるセクハラです。女性の上司の指示を聞かない・男性の上司に指示を仰ぎ直すことも「制裁型」に当たります。
 
内容にもよりますが、メールなどをしつこく送ることは「妄想型」のセクハラです。
 
性的な画像や映像を見せてくる・見えるところに置く・周りからも見える状態で見ていることは「環境型」のセクハラです。環境型の3つのタイプのうち「視覚型」に当たります。
 
カラオケのデュエットを断られても強要することも「環境型」に当たるセクハラです。宴席でお酌をさせたり料理を取り分けさせたりすることも「環境型」のセクハラです。

事例③反応・対応

相手の行動に対する反応・対応がセクハラになる例をまとめます。
 
まず、性的な要求をして断られた場合に不利な配置転換を行ったり評価を下げることが挙げられます。同じく性的な要求をして断られた場合に、ネガティブな噂を流すこともセクハラです。どちらも「対価型」に当たります。
 
また性別を理由にお茶くみやコピー取りを求めた際に、それを断った相手の評価を下げることもセクハラになります。これは「制裁型」に当たります。

セクハラに関する法律

セクハラに関しては、まず「男女雇用機会均等法」が基本法として位置付けられます。

同法第11条では、事業主が職場における性的な言動によって労働者が不利益を受けたり、就業環境が害されることのないように、相談対応や体制整備などの措置を講じる義務が定められています。

さらに、厚生労働大臣による指針(平成18年厚生労働省告示第615号)では、「事業主の責務」や「職場における性的な言動に起因する問題に関して講ずべき雇用管理上の措置」が具体的にまとめられています。

加えて、セクハラに関連する行為の中には、傷害(精神的被害も含む)、強姦・強制わいせつ、名誉棄損・侮辱などの刑事責任が問われる場合もあります。加害者だけでなく、使用者としての民事責任(人格権侵害や使用者責任)も問われる可能性があります。

参考:事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針

法改正による義務の拡大(男女雇用機会均等法 新13条・14条)

2025年6月11日に公布された改正法(施行は2026年末ごろを予定)により、男女雇用機会均等法に新たに第13条・第14条が規定されました。

これにより、事業主が講ずべきハラスメント防止措置の対象が労働者だけでなく、就職活動中の学生やインターンなどの「求職者等」にも拡大されました。

従来は「望ましい取り組み」とされていた就活生へのセクハラ防止が、法的に義務化されたことが大きなポイントです。
これにより、企業は採用活動全般において、セクハラ防止方針の明確化や相談窓口の設置、関与者への教育など、具体的な措置を講じる必要があります。


法改正の概要

2025年6月11日に公布された「労働施策総合推進法・男女雇用機会均等法・女性活躍推進法の一部を改正する法律(令和7年法律第63号)」により、求職者等に対するセクシュアルハラスメント(いわゆる「就活セクハラ」)の防止が事業主の義務として法定化されました。

これまで努力義務に留まっていた就活セクハラ対策が、法律上の義務として明確化されたのです。

施行時期

  • 公布日:2025年6月11日
  • 施行日:公布から1年6か月以内に政令で定める日
    (概ね2026年末ごろ)。一部規定は2026年4月1日施行予定

参考:労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律について

就活セクハラ対策義務化のポイント

ここでは、対象となる範囲とリスクのある場面を整理します。

対象となる「求職者等」とは

雇用関係はないものの企業との関わりを持つ、以下のような立場の人が含まれます。

  • 就職活動中の学生
  • 求職者
  • インターンシップ参加者
  • OB/OG訪問で接点を持つ学生 など


特に就活生は「立場上断りづらい」状況になりやすく、

企業側の一方的な言動がハラスメントにつながりやすいことが問題視されてきました。

リスクが潜む場面

採用活動と結びつくあらゆる接触機会が対象になりました。

  • 面接
  • インターン(職場実習、リクルーター面談含む)
  • 会社説明会
  • OB/OG訪問
  • 内定者フォロー面談 など


就活セクハラはオンライン面談やSNS経由の接触でも発生し得る点に注意が必要です。

事業主が講ずべき具体的義務

事業主は、求職者等へのセクハラ防止のため、以下の措置を講じる義務があります。

  1. 方針等の明確化と周知・啓発
    • 採用段階からのハラスメント防止方針を文書化
    • OB・OG訪問など、労働者と求職者が接触するあらゆる機会における面談ルールの明確化
  2. 相談体制の整備と周知
    • 求職者からの相談に応じる窓口の設置と周知
    • 外部相談窓口の併設も推奨され、第三者性やアクセス性の確保が望ましい
  3. 教育義務の履行
    • 面接官、リクルーター、OB/OGなど採用活動に関与する者への研修・教育の実施
  4. 発生後の迅速かつ適切な対応
    • 被害者の心情に配慮した調査・ケア
    • 必要に応じて行為者への注意・謝罪などの対応
  5. 不利益取扱いの禁止
    • 相談対応に協力した労働者への解雇やその他不利益な取り扱いの禁止

実務対応のポイント

  • 事業主は、社内規程やマニュアルに求職者等へのハラスメント防止措置を明記
  • 社内・外部の相談窓口を周知し、相談のしやすさを確保
  • 採用担当者や面接官への教育・研修を定期的に実施
  • 発生事案の記録・対応フローを整備し、迅速かつ適切な対応を可能に
  • 法改正に基づく企業リスク(勧告・公表制度)を理解し、未然防止策を徹底

裁判の事例

セクハラの責任が問われた裁判の事例をいくつか紹介します。

  • 東京高等裁判所判決令和4年5月31日
    医療法人に勤務する管理職が、複数の女性事務職員に対してセクハラ行為を繰り返した事例です。被害者の一部は退職する事態となり、解雇の有効性が争われました。東京高裁は、加害者の常習性・悪質性、注意指導後も改善されなかった点などを考慮し、解雇を有効と判断しました。
  • 京都地方裁判所判決令和元年6月28日
    学校の分室長が、常勤講師に対し複数回抱きしめてキスする・胸を触る、拒絶する被害者と数回性交渉したという事例です。被害者はうつ病で休職・退職し、労災認定されました。最終的に590万円の支払いが命じられました。
  • 広島地裁判決平成19年3月13日
    忘年会の席で、複数の加害者が複数の被害者に対して抱きつく・引き倒す・写真撮影させるといったことを行った事例です。損害賠償請求の結果、会社と加害者らの連帯責任で70~220万円の支払いが命じられました。
  • 仙台地方裁判所判決平成30年4月24日
    上司部下の関係にあり、自分の意向に沿わせるようなメールを送る・嫌がるのに体に触るといった行為があった事例です。被害者はうつ病になりました。性交渉もありましたがそちらは合意と認定され、最終的に150万円の支払いが命じられました。

ここにまとめた裁判例は、主に慰謝料の支払額を示していますが、セクハラの影響は金銭的損害にとどまらず、企業や個人の社会的信用にも大きなマイナスとなります。

特に、東京高裁判決のように加害者の常習性や悪質性が認定される場合、解雇や処分の妥当性が争点となり、企業の管理体制も問われます。

また、広島地裁の事例に見られるように、加害者が「場を盛り上げるつもり」で行った行動でも、被害者にとってはハラスメントとなる場合があり、自覚なしに発生することもあるため、注意が必要です。


セクハラの予防と対策

セクハラを未然に防ぎ、発生時に適切に対応するためには、職場内の対策と求職者等への防止措置の両面から取り組むことが重要です。

ここでは、従来の職場内対策に加え、2025年の法改正に対応した求職者等への防止措置も整理して解説します。

職場内の対策(従来通り)

職場内でのセクハラ防止のため、事業主は以下のような対策を講じます。

  1. 懲戒規定などを定める
    就業規則や社内規程にセクハラ行為に対する懲戒処分の内容を明記します。
  2. 対応の体制作り
    相談窓口や調査担当者を設置し、被害者の相談に迅速かつ適切に対応できる体制を整備します。
  3. 研修など周知
    従業員向けのセクハラ防止研修を実施し、社内ルールやハラスメント防止方針を周知徹底します。

求職者等への防止措置(法改正による義務)

2025年の法改正により、就職活動中の学生や求職者、インターン生などに対するセクハラ防止措置が事業主の義務となりました。職場内対策に加えて、採用活動全般における対応が求められます。

方針の明確化・周知

  • 採用段階からのハラスメント防止方針を明文化
  • 面接、会社説明会、OB/OG訪問など、労働者と求職者が接するあらゆる機会での行動ルールを定め、周知・啓発を行います。

相談体制整備・周知

  • 求職者が安心して相談できる窓口を設置し、周知します。
  • 外部相談窓口を併設することも推奨され、第三者性やアクセス性の確保を図ります。

教育義務(採用活動に関与する者)

  • 面接官、リクルーター、OB/OGなど、採用活動に関わる全ての者に対して研修・教育を実施し、適切な対応が行える体制を整えます。

発生後の迅速かつ適切な対応

  • 事案発生時には被害者の心情に配慮しつつ、迅速な調査・被害者ケア・加害者への注意・謝罪などを行います。
  • 職場内・採用活動の両方に適用される基本対応として、統一的な手順を設けることが推奨されます。

不利益取扱いの禁止

  • 相談に対応・協力した労働者に対して解雇やその他不利益な扱いをしてはなりません。

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参考:セクハラに強い弁護士の選び方|無料相談の方法や弁護士費用について解説|法ナビ労働問題

 

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